2024-06-17

フレンチ・ジュエリーと日本工芸


 先週のことですが、打ち合わせの帰りに東京国立博物館・表慶館にて開催の「カルティエと日本 半世紀の歩み 結MUSUBI」展へ行ってまいりました。
表慶館は明治時代(1904年)に建築された、日本で初めての美術館。ヨーロッパの様式を色濃く取り入れた構造や内装も優美で素敵です。







フレンチジュエラー・カルティエと日本との半世紀に及ぶ関わりを中心に、現代アートなども展示されていた会場、やはり興味を惹かれるのは1890年代にフランスへと渡った日本の工芸品です。最近の展覧会はフラッシュを焚かなければ撮影OKのところが増えて有り難いなと思いながら、まずは肉眼でじっくりと観察。ルイ・カルティエが個人で蒐集したコレクション、中でも華やかな漆が施された二段や四段重ねの印籠は今見ても精緻で美しく、畳や白木を用いた展示ケースとの組み合わせも楽しいものでした。




古典柄、青海波をモチーフにした幾何学的なブローチ。
プラチナとダイヤモンドの繊細な輝きはアール・ヌーボーからアール・デコへとスタイルの主流を変えてゆきます。家紋も当時のヨーロッパの人々に衝撃を与えたものの一つで、カルティエのみならずルイ・ヴィトンも日本の家紋にインスピレイションを受けてブランドロゴをデザインしたというのは有名な逸話です。



ハイジュエリーも勿論堪能しましたが、気になるのは当時の情報が詰まったこちら。
「Katagami Roll(型紙の巻物)」というタイトルで、展示品は着物の柄などを染めるのに使う型紙なのですが、それを包んでいた紙は当時のもの。

「シンプルな装飾」との書き出しで模造木材と模造大理石を宣伝する紙はフランスの広告でしょうか、その後ろに日本の新聞もしくは雑誌が透けています。時間があったら、解析してみたいです...






せっかく国立博物館まで来たからと、平成館と本館も鑑賞。どちらも展示数が凄まじいので、今回は平成館の江戸貨幣と古代から出土した金属製品を中心に回ろう、と自分の中でテーマを決めます☺️


実は5月から母校の大学で特別授業を受けており、江戸時代の貨幣経済と生活について勉強中。講義で取り上げていた丁銀の実物を見ることができて大興奮でした😍








金属つながりで、金銅製の沓。5~6世紀の出土品の複製品ですが、全体に付けられた歩揺(ほよう)がとても可愛らしくて思わずスナップ。きっと歩くたびにしゃらしゃらと音がするのでしょう。




国立博物館エントランスの金属扉、迫力のレリーフ。
ステンドグラスも美しいです。









浮世絵版画の体験、5枚刷りは上手くいったのに最後の日付判子で大失敗という...🤣





 

2024-05-30

5月のPOP-up


月に一度のPOP-up Shop、今月は可愛らしいお客様がいらしてくださいました。
鉱物がお好きで、ミネラルショーなどにも出かけるという小学生のお客様。ぜひ色々ご覧頂きたいとダイヤモンドの原石やカットされたもの、サファイアとガーネットの輝きの違い、紫外線でカラーチェンジする宝石...等々、気付けば2時間近くも宝石についておしゃべり。
ルーペを使って宝石を覗く、という作業もしていただいたのですが、輝きの強い宝石を「石の中に宇宙がある」と何とも詩的なフレーズで表現されていたのが印象的でした。


そして夕刻まで途切れずお客様は続き、ご予約を入れて頂いていた顧客様からは素敵なギフトを頂きました。
ご自宅の整理をされて使い道が無いからとお持ちくださったのは、とあるブラジルのジュエラーさんが現地でお土産に作っていた鉱物標本。恐らく現在でもあるのかもわかりませんが、30年以上も昔の標本ですのでかなりレア。自分だけで楽しむのも勿体ない...ということで、次回以降のPOP-upでご覧いただけましたら幸いです☺️






 


5種の宝石の原石が行儀よく収められているこの標本、それぞれの宝石の名前がお分かりになりますでしょうか😁

2024-05-02

古代コインのペンダント


アトリエには時に、驚くようなオーダーが舞い込みます。


今回顧客様から頂いたご依頼は、お手持ちのコインをアミュレット(御守り)のように身に着けられるペンダントにお仕立てするというものでした。


貴重なコインのため、磨いたり一切の手を加えずにペンダントに加工することをご希望で、一度実物を拝見することになりお持ち頂いたのですが、専用のプラスチックケースと更に保護カバーに包まれた状態でも一目見て分かるデザインの美しさに思わず息を呑みました。


お持ち頂いた御品がこちらです。




紀元700~750年頃(!!!)に造られたイタリア・ロンバルド王国のコイン。

古代コインでありながら欠損や劣化のほぼ見られない、非常に状態の良いこの逸品は元々保管用として流通させることなく仕舞われており、最近になって市場に出てきたそうですから、つまり1300年以上もの間静かに眠っていた事になります。いやはや、悠久......😲💦




古代~中世にかけてのイタリア史はあまり詳しくないので付け焼き刃ですが、ここから少し歴史のお話を。

ロンバルド王国は西暦568又は569年にゲルマン系のロンバルド一族によって建国され、774年にカール大帝によって滅ぼされるまでトスカーナを含む北イタリア、南イタリアの半分以上を治めていたと云われています。

ちなみに日本語では「ランゴバルド王国」とイタリア語 longobardoのカタカナ表記で書かれますが、英語の文献では Kingdom of the Lombards「ロンバルド」と記されます。古代コインの資料は英語表記なので、翻訳のトラップですね;;(ロンバルディアと名のつく国家は1800年代にも存在するので更にややこしい事に😅





拡大接写すると、一つひとつ貨幣を手作業で製造していた時代を忍ばせるディテールがくっきりと。裏面にもイタリアらしい、洗練された図案が全面に描かれています😍
歴史的価値に加えて美術品としても、特級の美しさではないでしょうか。








この貴重なコインに極力ダメージを与えないよう、製作する職人には技術はもちろんのこと繊細な気配りが要求されます。事前に古代コインのレクチャー&構造面の打ち合わせにかなり時間を割き、ギミックの改良を重ねてようやく製作スタート。そうしてこちらのペンダントが完成いたしました。




プラチナベースにゴールドをポイントで使い、テクスチャーのコントラストでコインの図案を引き立たせています。着用した状態でくるくるとトップ部分が回転するリバーシブル仕様。




ジュエリーは組み上げ後、最後に仕上げ磨きを行いますが、このペンダントはコインを組み込む作業が最終工程。「1000年前...(´д` ;)コワイ」と呟きながら作業してくれた職人さんの細やかな手仕事にいつも頭が下がります。顧客様にも大満足と仰っていただき、ほっと一安心。
クチュールジュエリーに携わっていますと顧客様の次の世代、その次の世代の事まで考えてデザインを決めたりと自分の人生よりも長いスパンで作品の事を考えるようになってまいりますけれども、今回のご依頼は古代からの歴史に触れる事が出来た、得難い経験となりました。





























2024-04-03

王子の桜とファッションプレート


 SNSのお知り合いから教えて頂いた企画展を観賞に王子の北区飛鳥山博物館へ。

『ファッションプレートが映し出す近代』と題されたこの展示は、日本の服飾文化史における重鎮・伊藤紀之翁が近代ヨーロッパを中心に国内外で収集したファッションプレート(ファッションスタイル画)の歴史を紐解く展示です。

古いものは1500年代のフィレンツェから17・18世紀貴族階級のドレススタイル、やがて産業革命を経て20世紀のモードの変遷を日本国内と比較しつつ一気に観賞出来る充実の内容で、展示されている資料の数やバリエーションの豊かさに圧倒されました。

これらのファッションプレートを製造する凹版印刷が実は日本の紙幣で使われる原盤彫刻の技術と同じであるというのも非常に興味深く、何より当時刊行されたモード雑誌のデザインの美しさ、洗練度にうっとりと見入ってしまいます。コレクターの情熱を間近に感じられる素晴らしい企画展でした。





許可を頂いて撮影。フラッシュ無しでのみ撮影OKとのことです。
ヨーロッパ・日本共に1900年代はファッションが大きく変遷した時代、貴重な資料が沢山あり何度も訪れたくなってしまいます。下の写真は表示のカリグラフィーが美しい『ガゼット・デュ・ボントン』当時最先端のファッション情報源だったことでしょう。













一寸珍しい洋装の男女をモチーフにした木版画。明治21年の製作だそうで、バッスルスカートのボリューミーなシルエットを浮世絵の洗練されたラインで見事に描いています。









19世紀の原画と印刷画を比較して。印刷は線がくっきりとディテールがわかりやすく、原画は水彩の淡い表現が優しい印象です。




フォトスポットもあったりと親しみやすい構成。





5月12日まで開催のこの展示、なんと無料。ファッションにご興味ある方は是非お薦めしたいですし、図録も情報量が多く有り難いです。








   春期企画展『ファッションプレートが映し出す近代』美術と技術の交差点
   北区飛鳥山博物館 特別展示室・ホワイエ







帰りに駅までの道で見かけたレトロな風景。
桜はまだ5分咲きでしたから今度は満開の時に訪れてみたいです。














2024-03-18

春色のリング

このところインスタグラムやFacebookに発信の場がうつり、こちらのBlogはすっかりご無沙汰しておりました...;;ですが、SNSをされていない方にはこちらからの発信は大事だと改めて思い直しまして、SNSと重複してしまいますがこちらにもまた写真など載せて参りたいと思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。






先日お納めしたクチュールリング。
春の気配を雫に閉じ込めて指先に乗せたような、ぽってりと淡いローズクォーツとプラチナのシンプルなデザインに顧客のマダムの特別な思い出が詰められています。

リングの製作にあたってマダムから頂いたリクエストは「記憶の中の指輪」を作りたいというものでした。
若い頃に訪れたパリの街角で宝石店のウィンドウに飾られていた指輪、桜のような淡いピンクの宝石とコロンと丸いフォルムに心惹かれていつか身につけたいと思っていたところ、そのお店はなくなってしまい、憧れのリングの思い出をずっと忘れられずにいらしたとのこと。
まずはマダムの記憶を頼りに、イメージに合う色味を探していつくかの産地別に石をチェックすることから始めます。



ルースの選定風景。同じローズクオーツでもそれぞれ微妙に色合いが違います😚



ミャンマー産の透明感あるピンクも美しかったのですが、彼女が選んだのは少し淡くてミルキーなピンクが可愛らしい
ブラジル産のローズクォーツ。
かなり大きなルースのサイズを模型に合わせてリカットし、プラチナ枠はギリギリまで高さを抑えてまるで大きな水滴が指の上に乗っているような印象にお仕立ていたしました。
完成したリングを嵌めて下さったマダムが当時の気持ちを思い出したと笑顔で喜んでくださった事がとても嬉しいお仕事でした。