2024-12-12

受け継ぐ宝石箱

商品コンセプト&デザインを手掛けさせて頂いた宝石箱、

『うつぐ ~次世代に受け継ぐ宝石箱~』が本日12月12日、12:00〜ショッピングチャンネル qvcジャパンにてお披露目となります。

長年お付き合いのある企業様とチームを組んで取り組んだ足掛け2年のプロジェクト、ようやく完成した宝石箱のお話をエッセイ風にまとめてみました。少し長文になりますが、秋の夜長の御供に😉お楽しみ頂けましたら嬉しいです。





 

「100年使える宝石箱を作りたいんだ」

 ジュエリープロデューサー・滝野順さんから突然そんなお話を頂いたのは、まだコロナの影響が色濃い2022年のこと。また突拍子も無いお話だとその時は思いました。


「既存のジュエリーボックスに欲しいと思えるものがない」

「ノベルティのような安物ではなく、大切なジュエリーを収納するにふさわしいクオリティと品格、家具のようにお客様が次の世代に引き継げる耐久性が欲しい」

「誰も見た事のない新しいアイディアで使い勝手が良く、見る度嬉しくなるようなものが作りたい」

 

 熱く語るその言葉に圧倒されつつ、彼の頭の中に生まれている理想の宝石箱を想像してわくわくしたのを覚えています。クライアントの思い描く理想を形にするのがデザイナーの性分ですから、是非ともこの未知の宝石箱を実現させたいと、会社の皆様とともに試行錯誤のプロジェクトが始まりました。まず始めにモノづくりの指針となるコンセプトを「100年宝石箱」と定め、これは譲れないというポイントを絞り込みます。


 ひとつには素材・製造を国産にこだわり、高品質を目指すこと。また使い勝手が良く、ジュエリーの収納における「規格品での不満」を解決できる機能性、それから長年の使用に対して劣化ではなく、使い込まれるうちに生じる変化を「風合い」として楽しめる高級家具の要素も外せない条件です。


 これらのスペックに加え、大切にしなければならないのが製品に吹き込む「物語」。つまり心ときめくようなテーマとお客様に共感いただける世界観を創ることなのですが、お客様方が日常のどんなタイミングで、シチェーションでこの宝石箱を手に取るのか、想像力(時に妄想力😅)を働かせてファンタジーと現実を擦り合わせ、それをデザインに落とし込んでゆきます。


 バタバタと職場に向かう朝の一幕、それともファッションと照らし合わせてじっくりアイテムを選ぶ休日のお出かけ前。或いはメイクにも気合を入れてとっておきの一点を身に着ける特別な夜。どんなシチュエーションでも宝石箱を開くその一瞬は、誰しも美しく在りたいと思う瞬間に他なりません。その刹那にわくわくと心躍る魔法、お客様の高揚感を掻き立てるドラマティックな演出を宝石箱に施すわけです。


 例えるなら、パリの夜に煌々と輝くオペラ座や、ベネツィアのフェニーチェ劇場を訪れた時の心躍るあの瞬間。歴史を重ねた重厚な門をくぐって中へと足を踏み入れた途端、絢爛たる色と光の洪水に包まれる感覚の再現です。金を施された優美な装飾と煌めくシャンデリア、ふかふか手触りの良い深紅の座席に迎えられて心がときめかない方は稀なはず。その「非日常の世界」を箱の中に描き出せたとしたら、どうでしょう。

 宝石箱はTeatro(劇場)、キャストはお客様の大切なジュエリー達。外観のデザインは極力シンプルでシック、重厚な木製の蓋を持ち上げると一転して目に飛び込んでくる華やかな色彩の内装に、お気に入りのジュエリー達が行儀よく並んで出番を待っている。そんなイメージが湧いてきます。


 けれどそれだけでは物足りない、華やかなステージに鎮座して出番を待つアイテムはお客様によって種類も数もそれぞれ違うのですから。これは量産品の宿命とも言える問題ですが、画一的な収納スペースではどこかに無駄や手狭が生じ、ネックレスのスペースが余ったり、耳ものの収納が足りなくなったりと結局、使い勝手が良くないのです。ならばいっそ、お客様のお持ちのジュエリーに合わせてステージそのものを変化させてはどうだろう。高低差のある小さなキューブを空間いっぱいに敷き詰め、自在に稼働させるというアイディアを思いつきました。チェスボードの上でゲームを組み立てるように、ライフスタイルに合わせて自在にレイアウトを組み立てて頂くシステムです。


 こうして宝石箱の機能面でのテーマ、Let's make your game(レッツ・メイク・ユア・ゲーム)が固まりました。漠と描いていたイメージスケッチからデザイン画を起こし、同時に素材についても吟味を始めます。本体は国産の木材、内装の布は劇場の緞帳などに使われる貫八別珍に決まり、製作を進めるにあたっては建築・家具の素材に造詣の深い担当Yさんと共に、選定したジュエリーケースの業者さんとリモートでのミーティングを重ね、製作がスタートしました。

 

 

 


 



 クチュールジュエリーの製作現場では、デザイン画と共に職人に実寸の「モック(模型)」を見せて構造を説明することがあります。今回はその手法を取り入れ、実際にqvcの主力購買層である女性達がお使い勝手の良いサイズはどれなのか、箱本体やキューブの大きさを何パターンか試材で作成し、スタッフの方々とも実際に蓋を開け閉めしてシュミレーションを重ねました。素材が決まり、サイズと仕様も決まっていよいよ試作品の製造へと進んでほっと一段落したのも束の間、ここからプロジェクトは難航の途を辿ります。というのも、依頼していたジュエリーケースの業者さんでは思い描いていた質感や雰囲気に仕上がらず、試作品が上がったところで理想像との差に皆、愕然となってしまったのです。


 どうにか理想像に近づけようとリモート・ミーティングを重ねましたが、デジタルツールを使っての打ち合わせではこちらの熱量がうまく伝わらず、結果として粛々と進める製作現場とプロジェクトチームとの間に、そこはかとない軋轢のようなものが生じていた様に思います。このまま進めても難しいのではないか、という予感を拭えないままに時間ばかりが進み、業者さんの側でも今まで製造した事のないものをやろうと協力してくれてはいたのですが、最終的に製作所を変更することになり、工場探しから再スタートしたプロジェクトの進捗はこの時点で大きく頓挫することとなりました。



  




 手詰まりとなっていた製作プロジェクトが再び動き出したのは、Yさんからの連絡でした。

他県にある家具の会社が製作をしてくれるかもしれないとの事で、急遽試作品1号を携え、二人で向かいます。電車とバスを乗り継ぎ、のどかな風景に建つ工場の事務所にお邪魔すると、そこには木製家具や小物のサンプルが壁一面に飾られており、職人気質の若い社長さんが出迎えてくれました。挨拶もそこそこに早速デザイン画と試作1号を取り出し、思い描くのはこういう機構でこんな雰囲気で……と説明していると、

 

「それだったらこっちの金具が良いぞ」

「ここの機構は問題だなぁ。うちでは違うやり方で作ってるよ」

「塗装ならあそこの棚にサンプルがある、高級感を出すならこっちだ」

 

 いつの間にか集まってきた職人さん達が会話に加わり、わいわいとアイディアを出し合ってくれるのです。テーブルの上だけでは足りず、様々な箱サンプルや塗装見本が所狭しと置かれ、今まで雲を摑むようだった製作上の問題点がどんどんと明確になってゆきます。

 この時何とはなしに、あっこれは上手く行くぞ、と直感が働きました。現場の活気が我々の製作にかける思いと引けをとらない位に熱く、この製作メーカーさんならプロジェクトを最後まで一緒に走ってくれるだろうという確証めいたものを感じたのです。

 充実のミーティングを終え、ようやく晴れ晴れとした気持ちで東京へと戻りました。

 

 これでようやく着地点が見えてきたとその時は思ったのですが、またも問題が発生します。

半年を過ぎる頃になっても、完成品のサンプルは一向に上がってこないのです。聞けば、本体の仕様は問題なく進められているが、内装の別珍を小さなキューブに張り付ける作業に苦戦しているとの事。今回の内装に選んだ貫八別珍(かんぱちべっちん)は、実は今では世界中探しても日本でしか生産されていない希少な生地で、艶やかな光沢と独特の手触りが何とも言えぬエレガンスを感じさせる逸品。元々は1720年代に南仏リヨンで創案されたビロードの一種ベルベティンが語源で、産業革命のイギリスを経て日本にも輸入され、日本でも明治40年頃から国産別珍の生産が始まります。



 国産の別珍は1反の重さが1貫800匁あったことから通称・貫八(かんぱち)と呼ばれ、上流階級の屋敷のカーテンや劇場の緞帳、ご婦人方のドレスなどに使用されていました。独特の風合いを生み出すためには熟練の職人による手作業が必須なのですが、フランスをはじめとするヨーロッパでは機械化が進み、ベルベティンの生産は次第に消えてしまいます。

(現在ヨーロッパで生産されているベルベット、ベロア等は織り方の異なる生地です)

 現在では日本にわずかな生産者を残すのみとなっているこの生地をどうしても使いたい、匠の技によって生まれた美しいものをお客様に届けたい、そんな思いから選んだこの別珍を、違うものに差替えることはしたくない。けれど綺麗に張れなければ商品としてお届けできない……とまたも難しい局面が訪れました。

 

 そんな時、思いがけないところから救いの手が述べられます。最初にサンプル製作を仲介してくれたジュエリーケースの業者さん、実は滝野さんの旧知の方なのですが、状況を聞きつけて是非とも手助けしたいと言ってくれたそうなのです。

こうして宝石箱の本体は家具メーカーに、内装のキューブは布地張りのノウハウを持つジュエリーケース業者にと適材適所のオファーが実現しました。まさに餅は餅屋ならぬ、ケースはケース屋、家具は家具屋です。こうして最初にお話をいただいてから足掛け2年にも及ぶ「宝石箱プロジェクト」は、ようやく完成の日を迎えました。

 


 

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全面ダークブラウンの素朴なニス仕上げ、

装飾の一切ない無愛想にも思えるフォルム。

上質な木の手触りを感じながら少し重みのある蓋を持ち上げると

内側の大きな全面鏡がデコルテを映す位置に開きます。

内部には鮮やかな紅色のキューブ、リズミカルに並んだそれらは

お気に入りのジュエリー達を仕舞うスペースを華やかに形作っています。



 さて、ここから先は貴方次第。

チェスボードのように配置された高低2種のキューブは

自由に並べ替えることでスペースのサイズを変えられるのです。



リングやピアスがぶつからないよう細かく仕切りを並べましょうか。

それともイタリア製ボリュームネックレスのために

キューブを寄せてスペースを広く使いましょうか。

ペンダントのチェーンが絡まないように段差を使って

ユニークな並び方を考えるのも楽しい遊びです。



 箱の下部に潜んでいるのは、同じく別珍を張った薄い引き出し。

本体から取り外し、眼鏡や時計を仮置きするトレーとしても便利です。

もちろんとっておきのジュエリーや秘密の手紙、

欧州貴族のご婦人に倣って写真を忍ばせるのも素敵な使い方。

貴方のジュエリーコレクションに合わせて宝石箱の中で自由に、

ゲームを組み立てて頂きたいのです。



 そしていつかこの宝石箱が次の世代に渡される時、

箱に刻まれた貴方の足跡がジュエリー達と共に受け継がれる。

そんな思いを込めてこの宝石箱を「うつぐ(美継ぐ)」と名付けました。

切れ目なく引き継ぐ・継承するという日本古語

「うち継ぐ」と「美」を掛けあわせた造語です。



日本の素晴らしい素材、そして職人達の技術が詰まった

どこにも無い宝石箱をぜひ、お手元でお楽しみ頂けましたら幸いです。







 



                        

 

2024-06-17

フレンチ・ジュエリーと日本工芸


 先週のことですが、打ち合わせの帰りに東京国立博物館・表慶館にて開催の「カルティエと日本 半世紀の歩み 結MUSUBI」展へ行ってまいりました。
表慶館は明治時代(1904年)に建築された、日本で初めての美術館。ヨーロッパの様式を色濃く取り入れた構造や内装も優美で素敵です。







フレンチジュエラー・カルティエと日本との半世紀に及ぶ関わりを中心に、現代アートなども展示されていた会場、やはり興味を惹かれるのは1890年代にフランスへと渡った日本の工芸品です。最近の展覧会はフラッシュを焚かなければ撮影OKのところが増えて有り難いなと思いながら、まずは肉眼でじっくりと観察。ルイ・カルティエが個人で蒐集したコレクション、中でも華やかな漆が施された二段や四段重ねの印籠は今見ても精緻で美しく、畳や白木を用いた展示ケースとの組み合わせも楽しいものでした。




古典柄、青海波をモチーフにした幾何学的なブローチ。
プラチナとダイヤモンドの繊細な輝きはアール・ヌーボーからアール・デコへとスタイルの主流を変えてゆきます。家紋も当時のヨーロッパの人々に衝撃を与えたものの一つで、カルティエのみならずルイ・ヴィトンも日本の家紋にインスピレイションを受けてブランドロゴをデザインしたというのは有名な逸話です。



ハイジュエリーも勿論堪能しましたが、気になるのは当時の情報が詰まったこちら。
「Katagami Roll(型紙の巻物)」というタイトルで、展示品は着物の柄などを染めるのに使う型紙なのですが、それを包んでいた紙は当時のもの。

「シンプルな装飾」との書き出しで模造木材と模造大理石を宣伝する紙はフランスの広告でしょうか、その後ろに日本の新聞もしくは雑誌が透けています。時間があったら、解析してみたいです...






せっかく国立博物館まで来たからと、平成館と本館も鑑賞。どちらも展示数が凄まじいので、今回は平成館の江戸貨幣と古代から出土した金属製品を中心に回ろう、と自分の中でテーマを決めます☺️


実は5月から母校の大学で特別授業を受けており、江戸時代の貨幣経済と生活について勉強中。講義で取り上げていた丁銀の実物を見ることができて大興奮でした😍








金属つながりで、金銅製の沓。5~6世紀の出土品の複製品ですが、全体に付けられた歩揺(ほよう)がとても可愛らしくて思わずスナップ。きっと歩くたびにしゃらしゃらと音がするのでしょう。




国立博物館エントランスの金属扉、迫力のレリーフ。
ステンドグラスも美しいです。









浮世絵版画の体験、5枚刷りは上手くいったのに最後の日付判子で大失敗という...🤣





 

2024-05-30

5月のPOP-up


月に一度のPOP-up Shop、今月は可愛らしいお客様がいらしてくださいました。
鉱物がお好きで、ミネラルショーなどにも出かけるという小学生のお客様。ぜひ色々ご覧頂きたいとダイヤモンドの原石やカットされたもの、サファイアとガーネットの輝きの違い、紫外線でカラーチェンジする宝石...等々、気付けば2時間近くも宝石についておしゃべり。
ルーペを使って宝石を覗く、という作業もしていただいたのですが、輝きの強い宝石を「石の中に宇宙がある」と何とも詩的なフレーズで表現されていたのが印象的でした。


そして夕刻まで途切れずお客様は続き、ご予約を入れて頂いていた顧客様からは素敵なギフトを頂きました。
ご自宅の整理をされて使い道が無いからとお持ちくださったのは、とあるブラジルのジュエラーさんが現地でお土産に作っていた鉱物標本。恐らく現在でもあるのかもわかりませんが、30年以上も昔の標本ですのでかなりレア。自分だけで楽しむのも勿体ない...ということで、次回以降のPOP-upでご覧いただけましたら幸いです☺️






 


5種の宝石の原石が行儀よく収められているこの標本、それぞれの宝石の名前がお分かりになりますでしょうか😁

2024-05-02

古代コインのペンダント


アトリエには時に、驚くようなオーダーが舞い込みます。


今回顧客様から頂いたご依頼は、お手持ちのコインをアミュレット(御守り)のように身に着けられるペンダントにお仕立てするというものでした。


貴重なコインのため、磨いたり一切の手を加えずにペンダントに加工することをご希望で、一度実物を拝見することになりお持ち頂いたのですが、専用のプラスチックケースと更に保護カバーに包まれた状態でも一目見て分かるデザインの美しさに思わず息を呑みました。


お持ち頂いた御品がこちらです。




紀元700~750年頃(!!!)に造られたイタリア・ロンバルド王国のコイン。

古代コインでありながら欠損や劣化のほぼ見られない、非常に状態の良いこの逸品は元々保管用として流通させることなく仕舞われており、最近になって市場に出てきたそうですから、つまり1300年以上もの間静かに眠っていた事になります。いやはや、悠久......😲💦




古代~中世にかけてのイタリア史はあまり詳しくないので付け焼き刃ですが、ここから少し歴史のお話を。

ロンバルド王国は西暦568又は569年にゲルマン系のロンバルド一族によって建国され、774年にカール大帝によって滅ぼされるまでトスカーナを含む北イタリア、南イタリアの半分以上を治めていたと云われています。

ちなみに日本語では「ランゴバルド王国」とイタリア語 longobardoのカタカナ表記で書かれますが、英語の文献では Kingdom of the Lombards「ロンバルド」と記されます。古代コインの資料は英語表記なので、翻訳のトラップですね;;(ロンバルディアと名のつく国家は1800年代にも存在するので更にややこしい事に😅





拡大接写すると、一つひとつ貨幣を手作業で製造していた時代を忍ばせるディテールがくっきりと。裏面にもイタリアらしい、洗練された図案が全面に描かれています😍
歴史的価値に加えて美術品としても、特級の美しさではないでしょうか。








この貴重なコインに極力ダメージを与えないよう、製作する職人には技術はもちろんのこと繊細な気配りが要求されます。事前に古代コインのレクチャー&構造面の打ち合わせにかなり時間を割き、ギミックの改良を重ねてようやく製作スタート。そうしてこちらのペンダントが完成いたしました。




プラチナベースにゴールドをポイントで使い、テクスチャーのコントラストでコインの図案を引き立たせています。着用した状態でくるくるとトップ部分が回転するリバーシブル仕様。




ジュエリーは組み上げ後、最後に仕上げ磨きを行いますが、このペンダントはコインを組み込む作業が最終工程。「1000年前...(´д` ;)コワイ」と呟きながら作業してくれた職人さんの細やかな手仕事にいつも頭が下がります。顧客様にも大満足と仰っていただき、ほっと一安心。
クチュールジュエリーに携わっていますと顧客様の次の世代、その次の世代の事まで考えてデザインを決めたりと自分の人生よりも長いスパンで作品の事を考えるようになってまいりますけれども、今回のご依頼は古代からの歴史に触れる事が出来た、得難い経験となりました。





























2024-04-03

王子の桜とファッションプレート


 SNSのお知り合いから教えて頂いた企画展を観賞に王子の北区飛鳥山博物館へ。

『ファッションプレートが映し出す近代』と題されたこの展示は、日本の服飾文化史における重鎮・伊藤紀之翁が近代ヨーロッパを中心に国内外で収集したファッションプレート(ファッションスタイル画)の歴史を紐解く展示です。

古いものは1500年代のフィレンツェから17・18世紀貴族階級のドレススタイル、やがて産業革命を経て20世紀のモードの変遷を日本国内と比較しつつ一気に観賞出来る充実の内容で、展示されている資料の数やバリエーションの豊かさに圧倒されました。

これらのファッションプレートを製造する凹版印刷が実は日本の紙幣で使われる原盤彫刻の技術と同じであるというのも非常に興味深く、何より当時刊行されたモード雑誌のデザインの美しさ、洗練度にうっとりと見入ってしまいます。コレクターの情熱を間近に感じられる素晴らしい企画展でした。





許可を頂いて撮影。フラッシュ無しでのみ撮影OKとのことです。
ヨーロッパ・日本共に1900年代はファッションが大きく変遷した時代、貴重な資料が沢山あり何度も訪れたくなってしまいます。下の写真は表示のカリグラフィーが美しい『ガゼット・デュ・ボントン』当時最先端のファッション情報源だったことでしょう。













一寸珍しい洋装の男女をモチーフにした木版画。明治21年の製作だそうで、バッスルスカートのボリューミーなシルエットを浮世絵の洗練されたラインで見事に描いています。









19世紀の原画と印刷画を比較して。印刷は線がくっきりとディテールがわかりやすく、原画は水彩の淡い表現が優しい印象です。




フォトスポットもあったりと親しみやすい構成。





5月12日まで開催のこの展示、なんと無料。ファッションにご興味ある方は是非お薦めしたいですし、図録も情報量が多く有り難いです。








   春期企画展『ファッションプレートが映し出す近代』美術と技術の交差点
   北区飛鳥山博物館 特別展示室・ホワイエ







帰りに駅までの道で見かけたレトロな風景。
桜はまだ5分咲きでしたから今度は満開の時に訪れてみたいです。