2024-05-02

古代コインのペンダント


アトリエには時に、驚くようなオーダーが舞い込みます。


今回顧客様から頂いたご依頼は、お手持ちのコインをアミュレット(御守り)のように身に着けられるペンダントにお仕立てするというものでした。


貴重なコインのため、磨いたり一切の手を加えずにペンダントに加工することをご希望で、一度実物を拝見することになりお持ち頂いたのですが、専用のプラスチックケースと更に保護カバーに包まれた状態でも一目見て分かるデザインの美しさに思わず息を呑みました。


お持ち頂いた御品がこちらです。




紀元700~750年頃(!!!)に造られたイタリア・ロンバルド王国のコイン。

古代コインでありながら欠損や劣化のほぼ見られない、非常に状態の良いこの逸品は元々保管用として流通させることなく仕舞われており、最近になって市場に出てきたそうですから、つまり1300年以上もの間静かに眠っていた事になります。いやはや、悠久......😲💦




古代~中世にかけてのイタリア史はあまり詳しくないので付け焼き刃ですが、ここから少し歴史のお話を。

ロンバルド王国は西暦568又は569年にゲルマン系のロンバルド一族によって建国され、774年にカール大帝によって滅ぼされるまでトスカーナを含む北イタリア、南イタリアの半分以上を治めていたと云われています。

ちなみに日本語では「ランゴバルド王国」とイタリア語 longobardoのカタカナ表記で書かれますが、英語の文献では Kingdom of the Lombards「ロンバルド」と記されます。古代コインの資料は英語表記なので、翻訳のトラップですね;;(ロンバルディアと名のつく国家は1800年代にも存在するので更にややこしい事に😅





拡大接写すると、一つひとつ貨幣を手作業で製造していた時代を忍ばせるディテールがくっきりと。裏面にもイタリアらしい、洗練された図案が全面に描かれています😍
歴史的価値に加えて美術品としても、特級の美しさではないでしょうか。








この貴重なコインに極力ダメージを与えないよう、製作する職人には技術はもちろんのこと繊細な気配りが要求されます。事前に古代コインのレクチャー&構造面の打ち合わせにかなり時間を割き、ギミックの改良を重ねてようやく製作スタート。そうしてこちらのペンダントが完成いたしました。




プラチナベースにゴールドをポイントで使い、テクスチャーのコントラストでコインの図案を引き立たせています。着用した状態でくるくるとトップ部分が回転するリバーシブル仕様。




ジュエリーは組み上げ後、最後に仕上げ磨きを行いますが、このペンダントはコインを組み込む作業が最終工程。「1000年前...(´д` ;)コワイ」と呟きながら作業してくれた職人さんの細やかな手仕事にいつも頭が下がります。顧客様にも大満足と仰っていただき、ほっと一安心。
クチュールジュエリーに携わっていますと顧客様の次の世代、その次の世代の事まで考えてデザインを決めたりと自分の人生よりも長いスパンで作品の事を考えるようになってまいりますけれども、今回のご依頼は古代からの歴史に触れる事が出来た、得難い経験となりました。